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■小学校での「偲ぶ会」に寄せて

今年もまた7月末がやってきてしまいました。

誰にとっても厳しい今年の夏、小学校で羽菜の命日に機会をいただいていた、両親のお話も中止になりました。
そのかわりに、保護者のみなさんにお手紙と簡単な資料を配っていただきましたので、ご一読いただければ幸いです。
これは養徳小学校HPにもアップしていただいたとのこと、小学校の取り組みなどと併せて、そちらもぜひご覧ください。

2021年7月19日

生徒のみなさん、保護者各位

 今年も早や7月、いつもとは違う状況の中ながら、夏休みが始まろうとしております。例年はこの「偲ぶ会」を学校で催していただく際に、「両親から伝えたいこと」としてお話をする時間をいただいてきましたが、今年はコロナ禍の影響でそれがかないません。そこで、この手紙をお届けいただくことにいたしました。ご一読いただければ幸いです。

 事故のあった2012年7月30日から、すでに9年が経ちました。事故当時はもちろん、その後に私たちが行ったプールでの検証(2015年)時に在校されていた生徒さんもすべて卒業され、当時おられた先生方も校長先生以外はみんな異動されてしまいました。羽菜の名前もご存知ない保護者の方がほとんどではと思いますし、時間が経ち、そうなっていくのは当然のこととも感じております。

 しかし、私たち両親としては、この学校に通われる生徒さんや保護者の方々には、他ならぬ養徳小学校で起きたこの死亡事故について、ぜひ知っておいていただきたいと思っております。それは、事故について責め続けたいからではありません。もちろん、たった一人の娘を事故によって亡くしてしまったことについての思いは尽きることがなく、言いたいことは山のようにありますし、実際に言ってもきました。

 でも、それだけでは何も変わりません。

この9年間で私たちが思い知ったことの一つは、遺族がどれだけ声高に騒いでも、それが単なる個人的な思いとして伝わってしまえば、事故の本当の意味は理解されないということでした。一方で、ただ「どこかで起きた事故、小学生が一人亡くなった事故」というように一般化されてしまっても、おなじく事故の意味は素通りされてしまいます。

 私たち両親は、大切な羽菜が亡くなったことを無駄な死にはしたくありません。

  そのために、せめて同じ小学校に通い、同じプールを使っている養徳小学校の子どもさん方やその保護者の方々には、どのようにして事故が起きたのかを知り、事故が引き起こす混乱や悲しみ、苦しみを理解し、そのような事故が起きないためにどうすればいいのかについて、自分のこととして考え続けていただくことができればと願っております。

 学校に対しても、私たちに詫びるだけではなく、プール事故にかかわる経験やその後の対策などについて、考え続け、発信し続けてほしいとお願いをしてきました。遺族同様、そこで起きたことを当事者として語ることができるのは、学校だけだからです。(事故によって翻弄され、悲しんだり苦しんだりしたのは両親だけではないと思っております。当時の先生方、子どもさん方をはじめ、学校にかかわる周囲の方々もさまざまな思いを持たれたはずです。

 養徳小学校は、事故後、そのような事故が生じた際の緊急対応マニュアルを作成されており、それが学校関係者には高く評価されていると聞いております。しかし、私たち両親ですらそれを長く知ることがありませんでした。それはあまりにもったいないことです。

 発信を続けることしか、よく言われるところの「事故の風化」を防ぐ方法はないと思うからです。学校にも、そして縁あって同じ小学校に通学されているみなさまにも、ぜひ私たちと一緒に学校の安全について考え続けていただくことができればと願っております。

なにとぞよろしくお願いいたします。

  例年は、お話の際に見ていただいているスライドをまとめて、簡単な資料にしてみました。ご参照いただき、事故の経緯や、それによって引き起こされた事態についてご理解いただければありがたく思います。

 また、私たち両親はなお事故にかかわる自主検証を進めておりますが、随時、その情報をHPにアップしております。この検証の行方にも関心を持っていただければ幸いです。

 

浅田羽菜 両親