京都市立養徳小学校プール事故第三者調査委員会 「調査報告書」に対して

浅田羽菜 両親

 

 娘、羽菜が私たちの元を去ってから二年後の平成26年7月20日、私たち両親は「京都市立養徳小学校プール事故第三者調査委員会」による調査報告書の提出を受けました。

 

 この第三者調査委員会は、両親が京都市教育委員会と協働し、このプール事故の客観的・科学的な調査を実施すべく設置に努力したものです。設置に際しては、両親から、公正・中立な立場からの厳正な調査と、詳細な報告書の作成・公開を要望し、ご賛同いただいたみなさまからの7,389筆の署名もともに提出いたしました。

 

 平成25年7月 25日に始まった調査は、両親と京都市教育委員会が選任した各領域の専門家7名によって、多角的な側面から行われました。学校事故としては異例の、当日の状況を再現しての検証が敢行され、多岐にわたる関係機関、関係者への聴き取りが行われ、そこで収集された情報が、各委員の専門的な知見を用いて分析されました。

 

 私たち両親としては、まずは両親の要望を受け、第三者調査委員会の設置にともに動き、その運営にもご協力をいただいた京都市教育委員会と、一年という長期間、多大な労力と時間を費やし、事故調査にあたってくださった第三者調査委員会の委員のみなさまに御礼を申し上げます。そしてなによりも、学区をこえて再現検証にご協力いただいた大勢のお子さまと保護者のみなさま、聴き取り他の調査にご協力いただいた養徳学区のお子さまと保護者のみなさま、関係者のみなさまに、心からの感謝をお伝えいたします。

 

 本調査報告書では、上記調査による検証結果が示されるとともに、プール事故の再発防止に向けた提言が行われております。

 特に、事故の直接的な原因として、溺水のリスクを高める要因についての詳細な検討が行われたこと、事故後の救護措置の状況について率直な認定がなされたことは大きく、それはこの事故の原因究明をという要請に応えるものであると同時に、今後講じられる事故防止策に対して、重要かつ具体的な示唆を与えるものでもあると受け止めております。

 

 また、水泳指導の側面からの検討において、消極的な事故防止策だけではなく、積極的な安全指導の必要性という観点が示されたこと、さらには事後対応の検討において、いち早い聴き取り調査による事実解明への動きという対応の重要性が強調されたことも、たいへん意義あるものと考えております。

 

 そして、私たち両親が切実に望んできた、娘の最後の声を聴くということ、すなわち、溺水がどのように起こったのか、誰も見ていないその空白の時間を埋めるということについても、報告書の中では一つの認定がなされました。

 

 しかし非常に残念ながら、事故の発生状況に対するこの認定を、私たちはそのままに受け入れることはできません。

 

 結果的にこのような事態があり得ることは了解しておりますが、その認定の根拠が、報告書では十分に明確にはされていないと考えるからです。

 

 報告書に示された数値情報には誤差や曖昧な点が多く含まれており、それに基づいて推定された人の運動や所要時間の精確さには疑問が残ります。より具体的にいえば、プール内における人の動きについて、推定経路と速度の計測結果は示されていても、各人の運動能力や運動の相関関係についての力学的な検討がなされていません。また、各人の動きや位置を推定する基礎となった証言や論拠の矛盾も多く、必須と思われる再現実験がされていないなど、上記認定は、これらの不確定要素があまりに多い状況のまま示されていると言わざるを得ません。

 

 その意味で、事故の発生状況について調査委員会の示した見解は、整合的かつ合理的なものとは言えず、未だ検討の余地が多く残されていると私たちは考えております。

 

 事故から二年、流れる月日が私たちの羽菜への思いを変えることはありません。私たちにとって、事故はいつまでも昨日のことのような衝撃を持ち、羽菜がいないということの痛みは、日常を圧倒して存在し続けるものです。

 

 しかし、当事者以外の人にとって、月日が事故の記憶を薄れさせ、痛みを忘れさせていくものであることはやはり自然のこと、それを思えば、提言にも示されたように、原因究明のための徹底した調査が事故直後に行われることが、やはりまずなによりも重要であっただろうと思われます。

 

 そのような調査のないまま、事故から一年後という困難な条件を前提として、本調査委員会は発足しました。学校事故、殊にプール事故の調査委員会としては最初と言われる本調査委員会が、その条件下でどのように調査を展開したか、なにをなし得、なにをなし得なかったのか。その方針と内容は、今後、第三者機関による事故調査の一つの事例として広く参照され、その信頼性と妥当性が検討されていくことでしょう。

 

 多くの方にこの調査報告書をお読みいただき、私たちの娘、羽菜と両親に起きた事態がどのようなものであったかを知っていただくこと、娘が図らずも自らの命を賭して示すこととなった、プールにおける安全な環境整備の必要性について、ともに考えていただくことができれば幸いです。

 

 

 

 

平成26年8月

 

 

 

報告書提出を受けての京都市教育委員会のコメント

 

 

 

平成26年7月20日,第三者調査委員会から報告書の提出を受けました。

 

本件事故の重大さを改めて痛感し,浅田羽菜さんのご冥福をお祈りするとともに,ご遺族の皆様に癒えることのない苦しみを与えていることに,深くお詫び申し上げます。

 

提出いただいた報告書については,教育委員会として極めて重く厳粛に受け止めております。

 

 

 

このたびの第三者調査委員会は,「娘の最期に何があったのかを知りたい」とのご両親の強い願いにお応えするため,委員の選任の段階からご両親と教育委員会とで協議を重ね,平成25年7月27日,「京都市立養徳小学校プール事故第三者調査委員会設置要綱」に基づき設置いたしました。

 

その後11月には,「京都市執行機関の附属機関の設置等に関する条例」に基づき,改めて「京都市立養徳小学校プール事故第三者調査委員会の設置等に関する規則」を制定し,条例に基づく規則により設置する附属機関といたしました。

 

 

 

事故から1年が経過してからの第三者調査委員会の設置,調査開始でありましたが,各委員の方々には,そこに込められた多くの思いを十分に踏まえていただき,少しでも真実に近づこうと,再現検証や69回にも及ぶ聴き取り調査など,事故原因の徹底究明,事故後の対応の検証と再発防止に向け,その専門的見地から,昼夜を分かたず精力的な活動を行っていただきました。

 

安保委員長,石田副委員長をはじめ,委員の皆様に改めて心から深く感謝申し上げます。

 

 

 

事故発生後,教育委員会では,学校や教育委員会として把握している情報は全て警察へ提供し,事実解明に向けた捜査に誠実に協力してまいりました。

 

一方,学校の管理下で発生した事故であることの重要性を踏まえ,教育委員会としても独自に教員などへの聞き取りを行い,学校においても家庭訪問などを通じて,子どもたちからの情報収集に努め,事故発生当時の状況や,学校の管理体制について検証してまいりました。

 

その結果,水位管理や監視体制,大型ビート板の使用方法などの課題が明らかになりましたが,事故原因に繋がりうる直接的な要因,確定的な事実究明には至りませんでした。

 

そうした状況の下ではありましたが,学校での水泳指導の安全確保を図るため,昨年度,本市において,水泳指導の「指針」や「手引」を新たに作成し,活動中における教員の監視と指導の役割分担を強調するとともに,「監視者」の人数,監視者の役割や具体的な注意事項などを定めるなど,再発防止に向けた取組を進めてまいりました。

 

今回の報告書では,事故の直接的な原因について,「情報及び認識を関係各教員が共有することなく,監視と指導の役割分担が不明確なまま」,「適切な方法による監視を学校が徹底して行わなかったという監視態勢の不備」にあると厳しく指摘されており,「指針」「手引」の内容を改めて点検し,各校の水泳指導について,安全の確保に万全を期するとともに,児童・生徒,保護者,さらには教職員が不安感を持つことなく実施できるよう取り組んでまいりたいと考えております。

 

 

 

また,今回の報告書では,「事故後のご遺族との関係性のあり方」や,「事故の翌日から行った子どもたちからの聴き取りの方法」など,教育委員会の事後対応についても具体的な指摘を頂いており,真摯に受け止め,今後への教訓としてまいります。

 

 

 

今後とも,報告書の多岐にわたる提言をしっかりと受け止め,その具体化を図ることで,学校事故の未然防止,事後対応への改善策に十分生かし,二度とこうした事故が生じることがないよう全力で取り組んで参ります。

 

 

 

 

 

京都市教育委員会

教育長 生田 義久